東京高等裁判所 昭和61年(ラ)782号 決定 1987年1月22日
抗告人
比良満洲男
抗告人
佐藤充一
抗告人
清水愛恵
抗告人
川上幸子
右四名代理人弁護士
北河隆之
主文
本件各抗告を棄却する。
理由
一本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、更に相当な裁判を求める、というにあり、その理由は、別紙抗告の理由記載のとおりである。
二当裁判所の判断
1 抗告人らの抗告理由について
当裁判所も抗告人らの本件配当要求は配当加入の終期後にされたものであり不適法として却下すべきものと判断する。その理由は、原決定一枚目裏一二行目「当然である。」の次に、次のとおり付加するほかは、原決定の理由と同一であるから、その記載を引用する。これと見解を異にする抗告人らの抗告理由は、採用することができない。
「民事執行法一六五条一号の規定による配当加入の遮断効は、差押えと第三債務者による供託りの二要件が充足されれば生ずるのであり、本件のように仮差押えを原因として第三債務者(株式会社神戸製鋼所)による供託がされている場合にその供託金還付請求権に対して本執行として同一債権に基づく差押えがされたときは、順序は前後するが右の二要件は充足されているから、差押えの効力が生じた時点において配当加入の終期が到来したものというべきである。」
2 そのほか、記録を精査しても、原決定を取り消すに足りる違法の点は見当らない。
3 よつて、原決定は相当であつて、本件各抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官佐藤榮一 裁判官篠田省二 裁判官関野杜滋子)
別紙 抗告の理由
一、本件の事実経過の概要は次のとおりである。
〔1〕六一・一・二九 渡辺征二外七名が上記事件と同一の請求債権にて東友エンジニアリング〔上記事件の債務者〕の神戸製鋼所に対する請負代金債権を仮差押え。
〔2〕六一・三・二八 神戸製鋼所が東京法務局〔国、上記事件の第三債務者〕に請負代金債権を供託。
〔3〕六一・一〇・一四 渡辺征二外七名が東友エンジニアリングの国に対する供託金還付請求権を差押え〔上記事件〕。
〔4〕六一・一一・五 比良満洲男外三名〔本件抗告人〕が上記事件に対し配当要求。
二、配当加入の終期について、民事執行法はその一六五条に規定を置くのみであるが、その第一号によれば「第三債務者が第一五六条第一項又は第二項の規定による供託をした時」と規定するのみである。
そして、ここに「第三債務者」とは本件においては「国(法務局)」がこれにあたるが、国がこれをさらに「供託」するなどということはありえないので、結局、本件のように供託金還付請求権の差押の場合の配当加入の終期については同条同号の直接規定する場合には該当しないのである。
三、本件のような供託金還付請求権(広く、供託金払渡請求権)の差押の場合の配当加入の終期については、結局、解釈に委ねられていることになる。しかるところ、「配当要求の終期は一般に供託時とされていますが(一六五条一項)、この供託金払渡請求権の差押えの場合には、債権者の競合が生じた時点(競合する債権差押命令若しくは仮差押命令が第三債務者に送達された時又は配当要求が執行裁判所にされた時)と解されます」(田中康久「新民事執行法の解説〔増補改訂版〕」三四七頁)とされている。
四、本件では〔1〕の段階で東友エンジニアリングの神戸製鋼所に対する請負代金債権が渡辺征二外七名により仮差押されているが、原決定もいうようにこの「仮差押えの効力は債務者の有する供託金還付請求権の上に移行するから」、本件は結局、同一の供託金還付請求権に関し仮差押、差押、配当要求が競合した場合にほかならない。
五、すると、本件の配当要求の終期はいつの時点で「債権者の競合」が生じたのかにより決まるべきものである。しかるところ、〔1〕の仮差押と〔3〕の差押は同一の債権者が同一の請求債権によってなしたものであるから、〔3〕の時点において実質的に「債権者の競合」が生じたものではなく、抗告人らのなした〔4〕の配当要求の時点において初めて「債権者の競合」が生じたものである。従つて、抗告人らのなした本件配当要求は適法なものというべきである。
六、原決定は「仮差押の効力は債務者の有する供託金還付請求権の上に移行するから、その後に同債権に対する本執行に基づく差押えがなされた場合は、その時点において配当加入の終期が到来するものと解すべきである」というのであるが、この前段は後段の結論の実質的な理由づけにはなつてはおらず、その結論とするところも上述の理由により不当なものである。
(なお本件の配当は来年二月に予定されているとのことである。)